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Pick up Archi!! - 2017

サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂

設計:フィリッポ・ブルネレスキほか  竣工:1436年  所在:イタリア・フィレンツェ

ローマ・カトリック教会のフィレンツェ大司教座となる大聖堂で、13世紀末より中止と再開を繰り返しながら外陣(正面側)よりゴシック様式で建立が進められた。建築史上において極めて重要となるのが、内陣上部に載せられた二重殻のドームであり、これを木枠を用いずにレンガ積みで実現したことである。名声を高めたブルネレスキの後の建築家としての事跡がルネサンス様式の礎を形づくり、応じて本作のドーム部分がルネサンス建築の「産声」として意義が認められるものとなっている。

山口家住宅

竣工:19世紀中頃  所在:佐賀県佐賀市川副町大字大詫間

筑後川の河口にある大三角州に位置する当地域に特徴的な漏斗谷造の形式を持つ古民家。同地域に点在する棟をコの字型にしたクド造に似た形式だが、ロの字型に棟を形づくるという違いを持つ。雨水を小屋裏に通した雨樋を通じて、一度内部を経てから外部に排出するという全国的にも大変珍しい形式で、中でも意匠・規模ならびに保存状態からも最も優れた事例といえる。築250年を経て、現在もそのまま住み続けられる現役の住まいという点にも敬服するばかりである。

サッポロファクトリーレンガ館(旧札幌開拓使麦酒醸造所工場)

竣工:1892年  改修:1993年  所在:北海道札幌市中央区北2条東4丁目

1876(明治9)年に設立された日本のビール醸造発祥の地である「札幌開拓使麦酒醸造所」が前身である。後に建設されたレンガ造の工場が長らくサッポロビール社で使用された後に移転となったことに伴って、1993(平成5)年に複合商業施設にコンバージョンされた。イギリス積のレンガ造の躯体をほぼそのまま丁寧に活かす形で保存・再生がなされており、見学施設や各種店舗が既存のレンガ壁面と併存されることで建築空間としての彩りがより一層に醸成されたものになっている。

ザ白梅クラシックガーデン(旧笹野家住宅)

竣工:1880年  所在:三重県四日市市室山町

元々造り酒屋を営む商家の別邸として建てられた豪壮な邸宅である。2階建で入母屋造平入の主屋を中心に、表門脇と主屋後方に小規模な洋館を併せ持つ「和洋館並列型住宅」である。近年改修をされて結婚式場・レストランとして活用されており、洋館部分の趣は変えず、それでいて主屋の座敷部分を大幅に板敷とし、さらに内蔵をチャペルに変えるという、歴史的な趣は大切にしつつ、手を加えるべきところは大胆にデザインされている。まさに「コンバージョン」といえる好例であろう。

妻木晩田遺跡・復元竪穴住居

所在:鳥取県西伯郡大山町富岡・妻木・長田ならびに同米子市淀江町福岡

中国地方最高峰・大山の麓となる標高100mに及ぶ丘陵上に築かれていた高地性集落の遺跡であり、国内最大級の弥生時代の集落遺跡である。弥生時代の特徴となる楕円形平面をして、壁と屋根が一体化した円錐形状の竪穴住居が数棟並ぶ「弥生のムラ」が再現されており、地表より草葺のカタマリがシームレスに盛り上がる形状は建築というより植物に近く、特に出入口を斜に構えるプロポーションが興味深い。竪穴住居は一般的に草葺が知られるが、土葺住居も再現されている。

南砺市相倉伝統的建造物群保存地区

所在:富山県南砺市相倉

富山県南西部に位置する相倉集落は、日本有数の豪雪地帯という気候風土に適応するために培われた急勾配の切妻屋根を持つ合掌造家屋が点在する。中には寺院・神社もあり、生活に根付いた風土の象徴として茅葺の屋根が並ぶ様は厳しき自然に立ち向かう勇ましさと共生する慎ましさを感じさせる山村集落の風景が織り成されている。合掌造集落では岐阜県の白川郷が有名だが、相倉集落も世界遺産に同じく数えられており、一見の価値があるだろう。

倉吉市庁舎(現・倉吉市本庁舎)

設計:丹下健三+岸田日出刀  竣工:1956年  所在:鳥取県倉吉市葵町

昭和の大合併により建てられた庁舎で、東に行政事務、西にホール・議場を細長いスラブを積層して打吹山の麓という高低差を巧みに活かした造形を持つ。各層のジョイストスラブは細く削ぎ落とされた柱で支持する透明性の高い造りで、バルコニーは後の香川県庁舎に通ずる腕木状の小梁が並ぶ。管見では戦後モダニズム建築で初の登録文化財であるが、K型ブレースの耐震補強が外観を損ねてきた上に2016年の大地震で大きな被災を被ってしまった。

軽井沢聖パウロカトリック教会

設計:A.レーモンド  竣工:1934年  所在:長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢

当地におけるカトリック教会の設立に際して献堂されたキリスト教会堂である。コンクリートで築いた外壁の上に名栗のあるシザーストラスで急勾配の切妻屋根を載せ、正面から右側にかけて非常に緩い勾配で庇を架けており、これを一部室内化していることで不整形の平面形状となっている。ややアンバランスとも映る形状もさることながら、内陣上部の尖塔の造形も重なり、全体的にピクチャレスクな可愛らしいプロポーションとなっている。

伊佐爾波神社

建立:1667年  所在:愛媛県松山市桜谷町

国内最古級の古湯である道後温泉近くの道後山山腹に鎮座し、誉田別尊を主祭神とする八幡社である。多くの八幡社が流造社殿とする中で、切妻造平入社殿を2棟併設させるという特異な本殿形式を伝える「八幡造」を採り、これは全国で3社しか認められない希少な事例として知られている。正面には楼門を構えて回廊を巡らせた中に本殿を置く配置構成が清冽な空間を形成し、朱塗・極彩色の彫刻を纏った社殿に近世社寺らしい特質が認められる。

ソロモン・R・グッゲンハイム美術館

設計:F.L.ライト  竣工:1959年  所在:アメリカ・ニューヨーク

20世紀の3大建築家の1人であるF.L.ライトの遺作にして代表作となる美術館。近代建築史上に燦然と輝きを放つのは、中央の大きな吹抜を取り巻くように巡らされた螺旋状のギャラリーを持つ独特な建築空間にある。絵画・彫刻を巡りながら自然と上昇または下降する空間のシークエンスをファサードの造形に映し出し、またそれを柔らかなカーブで表現することで、設計者の提唱した「有機的建築」の理念を極めて明快に顕然させた傑作といえる。

キンベル美術館

設計:L.カーン  竣工:1972年  所在:アメリカ・フォートワース

美術収集家・キンベルの遺志により、そのコレクションを展示する美術館。ヴォールト型の古典的なモチーフを連続させたシンボリックなフォルムの中に、屋根のスリットから導かれる光がその湾曲した天井面を全体的に照らし、美術品を穏やか覆う神秘的な展示空間が織り成されている。ポストテンションで桁行方向のスパンを長大に飛ばすなど構造技術の高い技巧性にも注目できる​。私見ではポストモダンに通底する、その先駆けというようにも映る。

立正大学熊谷キャンパス

設計:槇文彦、石本建築事務所 (改修)  竣工:1967年、2010年(改修)  所在:埼玉県熊谷市万吉

建築家・槇文彦がメタボリズムの「群造形」の理論に基づきデザインした最初期の代表作の1つで、RC壁面が多彩な表情を織り成す豊かな構成美によりモダニズムの純粋なる造形性が表現されている。元々は東西に細長く、両端に学生ホールと大講義室が配された「鉄アレイ」とも言われたボリュームを持ったが、この東側半分を取壊し、後方に新たに親水空間を加えるなど、近年元々のデザインを大幅に改めるリノベーションが施されている。

幕張メッセ

設計:槇文彦  竣工:1989年、1997年  所在:千葉県千葉市美浜区中瀬2丁目

国内屈指の知名度を誇る大型会議場・展示施設で、2棟の国際展示場、イベントホール、国際会議場の4つの建物から全体が構成されている。中でも後から建てられた北ホールと呼ばれる国際展示場9~11ホールは、無柱の大空間を実現するために大きな鋼製柱を立てて立体トラスによる屋根を架け渡し、それを片側から鉄筋で引っ張るという技巧に富んだ構造形式が採用されている。

熊本県営保田窪第1団地

設計:山本理顕  竣工:1991年  所在:熊本県熊本市帯山1丁目

建築・都市を通じて県内の文化向上を図る「くまもとアートポリス」の一環で建てられた集合住宅。単に住居が連続する団地でなく、緩やかに湾曲した庇が載せられた豊かな表情を持つ住棟として建てられ、さらに台形状をした住民専用の中央広場を囲むようにそれらの住棟をコの字型に配置する。共有空間と一体となった生活空間として集合住宅のあり方が提案されており、現代にあって集まって住まうことの意味を問うている​。

上野東照宮

建立:1651年  所在:東京都台東区上野公園

高名な戦国大名・藤堂高虎が江戸の下屋敷内に創建したことに始まり、後に徳川家光の命により建てられたのが現在の社殿で、徳川家康に加えて、3代家光・15代慶喜を合わせて祀っている。日光東照宮と同様に拝殿・幣殿・本殿が一体となって築かれた権現造の社殿形式を持ち、華やかでかつ細密な彫刻・彩色を全面に纏わせた絢爛豪華な造作に圧倒される。近年修復工事が竣工して眩さを戻し、江戸時代の建立当初の姿形をより明瞭に想起させる。

日光東照宮陽明門

棟梁:甲良豊後守宗広  建立:1636年  所在:栃木県日光市山内

徳川家康を祀る日光東照宮にて表神域と内神域を隔てる楼門。礎盤を据えて台輪を持ち、詰組として扇垂木を掲げる伝統的な禅宗様の構成を下地とする。部材の各所を彫刻に代え、虹梁や羽目板に立体的な彫刻を備え、さらに柱・虹梁の表面に地紋彫を施し、胡粉塗の「白」、漆塗の「黒」、沈金彫・錺金物の「金」の基本色相に細部の極彩色を加えて全面的に彫刻と彩色で覆い尽くす。彫刻装飾の塊とも形容できる近世期最高峰の「工芸品」である。

旧岩谷堂共立病院

棟梁:及川東助  竣工:1874年  所在:岩手県奥州市江刺区南町

明治8(1875)年4月に開院した西洋医学に基づく総合病院。白漆喰塗の大壁で覆い、金属板で屋根を葺き、縦長ながら引戸とするガラス窓を並べて象徴的な八角形の塔屋を載せるという、いわゆる擬洋風建築の装いを持つ。経営難にてわずか3年で病院は閉院したが、後に裁判所や役場庁舎として手を加えられながら使用された。1982(昭和57)年には古写真に基づき現在の形に復原され、今は郷土の歴史・文化を伝える文化財として一般に公開されている。

旧東伏見宮別邸(現・イエズス孝女会修道院あけの星幼稚園)

竣工:1914年  所在:神奈川県三浦郡葉山町堀内

正面中央大振りな車寄と尖塔を構える白亜の洋館は、屋敷構えの豪奢さそのままに元々は東伏見宮家の別邸であった。南面から西面にかけてサンルーム状の廊下を備えてコロニアル様式に通ずる開放的な造りとし、細部意匠に古典的なモチーフはなく、簡略化した装飾が並ぶアール・デコの先取りを思わせるディテールを持つ。2階には座敷飾も持つ座敷を置くが、真壁に縦長の開口部を穿つなど和洋の室の取り合わせ方に当時代の進取性も見出せる。

旧関西大学図書館(現・関西大学簡文館 (博物館))

設計:村野藤吾(増築)  竣工:1928年、1955年(増築)  所在:大阪府吹田市山手町

ネオ・ゴシック様式の館舎に名手・村野藤吾の設計で円形建築となる閲覧室を増築した元々の関西大学図書館で、現在は同大の博物館となっている。とりわけ増築部分は当時流行していた円形建築を図書館に応用し、加えて外観にはコンクリートで縁取ったフレームの中にタイルを茶褐色の張り、2階バルコニーの腰壁には施釉タイルで鮮やかなレリーフを象る。1950年代に見られる村野藤吾ならでは意匠が散りばめられた情緒豊かな建築である。

新勝寺額堂

建立:1861年頃  所在:千葉県成田市成田

大本堂裏手の高台に所在する奉納された額や絵馬を飾るための堂宇。額を掲げるために小壁を四周・内部の柱割の通り芯上にもれなく取り付け、下層をピロティとした上部構造に著しく偏重する構造形式・用途共に特異な建築である。奉納額に埋もれる恰好のため目立たないが、木鼻や持送りに施された龍や虎などの籠彫は精巧で美事の一言に尽きる。各地の著名な社寺に置かれる額堂であるが、形式は共通しており、分布や範例が気になるところである。

旧日本陸軍第二師団歩兵第四連隊兵舎(現・仙台市歴史民俗資料館)

竣工:1874年  所在:宮城県仙台市宮城野区五輪

仙台駅東側に所在する榴岡公園は元々陸軍歩兵第四連隊基地で、兵舎1棟が歴史資料館となって現存している。木造2階建の白漆喰による大壁造で、太く縁取った上げ下げ窓に四隅をコーナーストーン状に象った擬洋風建築に類されるものである。玄関を正面・背面の左右に並べ、ここに階段を置き、2階床を挟み方杖で支持し、中廊下を通して兵卒室を配するという後の兵舎建築の基本形態として受け継がれる平面構成が早くも認められる。

浜離宮恩賜庭園(旧徳川家浜御殿庭園)

築庭:1669年  所在:東京都中央区浜離宮庭園

徳川将軍家の鴨狩場にはじまり、江戸時代には甲府藩下屋敷、徳川将軍家別邸となった。明治時代には国賓を招く迎賓館、次いで皇室の離宮へと引き継がれて、戦後より恩賜庭園となって現在に至る。東京湾より海水を引き入れた潮入の池と2つの鴨場からなる回遊式池泉庭園で水景の豊かな大名庭園の遺構である。鴨場が2つあり、大覗・小覗といった希少な付帯設備があるほか、建築家・山口文象デザインの大手門橋が残るなど見所も多い。

匹見川流域の水力発電所群(匹見発電所・澄川発電所・豊川発電所)

竣工:1928年(匹見)、1943年(澄川)、1928年(豊川)  所在:島根県益田市

「匹見峡」の渓流が豊かな匹見川流域に点在する水力発電所群である。上流からキリスト教会堂を思わせる匹見発電所、戦中の資材不足の中にRC造で梁端部を膨らませる昭和戦前期特有の細部をもって建てられた澄川発電所、そしてアーチやデンティルといった洋風建築の要素を擬洋風建築に通ずる意匠で纏った豊川発電所が稼働している。匹見地域という、山陰地方の山間地域における近代化の浸透の過程を伝える貴重な遺構の数々である。

倉吉パークスクエア

設計:シーザー・ペリ+大建設計共同企業体  竣工:2000年  所在:鳥取県倉吉市駄経寺町

紡績工場の跡地に整備された多目的ホール、図書館、梨をテーマにした博物館などを併設した複合文化施設。異なる機能を異なる形状・色彩・構造で全体を構成したテーマパークを彷彿とさせる華やかな建築意匠を持つ。とりわけ本作で象徴的なのはガラスのアトリウムを形成する集成材の架構で、その空間的な密度に圧倒される。本作はポストモダンに類される、ちょうど下火になった時期に建てられた晩期の代表作の1つに数えられるものとなろう。

山口文象自邸(クロスクラブ)

設計:山口文象  竣工:1940年  所在:東京都大田区久が原4丁目

建築家・山口文象の自邸で、日本伝統の町家のプロポーションからデザインされた昭和戦前期に特有の「木造モダニズム」の好例。「サロン」を中心とした「居間中心型住宅」の平面構成で、プールを備えた広庭と相まって情緒ある豊かな空間が形成されている。これは後に新しい建材を試みる実験住宅ともなって常に更新がなされ、「和風の上に時代と共に積層されたモダニズム」ともいうべくモダニズム建築の新たな境地と可能性を示している。

起雲閣(旧内田信也別邸/旧根津嘉一郎別邸)

設計:清水組(洋館)  竣工:1919年(和館)、1929年・1932年(洋館)  所在:静岡県熱海市昭和町

実業家・政治家の内田信也が母親の静養のために設けた和館にはじまり、後に実業家の根津嘉一郎の手に渡り、複数の洋館を増築して全体が形成された。総2階建の和館は群青や紫の漆喰で彩った座敷を持つ華やかな近代和風建築の造りで、後方に並ぶ数棟の洋館には、折上格天井に平三斗を並べた和洋折衷の洋室や天窓を設けてタイル敷きとしたサンルーム、ローマ風の浴室が置かれるなど、和館に負けない豪華で麗しい設えで整えられている。

千葉県文化会館

設計:大高正人  竣工:1967年  所在:千葉県千葉市中央区市場町

平安時代に千葉氏が居館を構えた千葉発祥の地にあり、「いのはな山文化の森」計画の一環で県立中央図書館と共に建てられた。敷地の起伏をランドスケープに取り込み、四角錐状に空間を高めたロビーを中心に東西軸でプロムナードを通して南側にホワイエと3層に及ぶ客席を持つホールを持つ。上下端を広げた造形的な柱、RC造のビシャン仕上げを内外に多用して情緒的な空間を織り成し、そしてホールの大壁面がダイナミックな表情を魅せる名作。

旧奈良監獄

設計:山下敬次郎  竣工:1908年  所在:奈良県奈良市般若寺町

「明治の五大監獄」といわれる山下敬次郎が欧米の刑務所視察に基づいて設計したレンガ造の近代監獄の1つ。本作は敷地全体に及んで明治の監獄が良好に残存しており、それは「ハビランドシステム」に基づく、本館後方に接続した監視台より舎房を放射状に並べ、囚人監視という刑務所機能に準じた建築となって表出している。これは鉄格子の嵌められた吹抜によって光が降り注ぎ、まるで教会に通ずる荘厳さを併せ持つ特異な空間が形成されている。

島根県芸術文化センター グラントワ

設計:内藤廣  竣工:2005年  所在:島根県益田市有明町

石見地方に特有な赤褐色をした石州瓦を壁面にも用いて、まさにグラントワ(=大きな屋根)を思わせる情景を描き、それと共に建築の長寿命化を図っている。屋根・壁が一体となったヴォリュームは大きくも地域に溶け込むように慎ましいが、そのファサードたるは水盤を湛える中庭が美しく彩り、周囲に巡らした回廊の外部に美術館と文化ホールの諸機能を配した構成とする。地域に開くあり方とは…地域をいかに受け止めると同義であろう。

美馬市脇町南町伝統的建造物群保存地区

所在:徳島県美馬市脇町大字脇町

阿波藩主・蜂須賀家の家老・稲田植元の下で藍商を中心として発展した商家町である。最も古いもので1707(宝永4)年に遡る国見家住宅をはじめとする、本瓦葺の起り屋根を持つ塗家とした切妻造平入の町家が東西に通じる街道の両脇に軒を連ねている。町並を特徴づけるのが隣家と接する2階部分の両脇に掲げられた卯建で、重厚でかつ豪奢なたたずまいを持つ町家が並ぶ様は「うだつの町並み」と呼ばれるに相応しい。

旧小笠原伯爵邸(現・レストラン小笠原伯爵邸)

設計:曽禰中條建築事務所  竣工:1927年  所在:東京都新宿区河田町

旧小倉藩主・小笠原長幹邸として建てられた大邸宅。クリーム色をしたモルタル塗の壁に青緑色のスパニッシュ瓦を載せ、中央に壁泉を持つパティオを設けて陸屋根の大部分をテラスにしており、昭和初期に流行したスパニッシュ様式の邸宅建築の中でも現存最高水準と評される。葡萄樹を象ったキャノピー、重厚な意匠を纏う食堂・客間、イスラム調でまとめた喫煙室など、インテリアやディテールの密度でも旧藩主邸らしい水準の高さを示している。

高蔵寺阿弥陀堂

建立:1177年  所在:宮城県角田市高倉

宮城県南部の山間の地に安座する阿弥陀堂で、県内最古の木造建造物として知られる。全国的にも希少な平安時代の堂宇で、地方に所在する阿弥陀堂の素朴なたたずまいを今に伝えている。太い柱に大振りな大斗肘木を載せた木割の大きい無骨な装いを持ち、柱間は板扉による妻戸を備え、一軒平行垂木の緩勾配の茅葺の宝形屋根を被せるという古代特有の建築的特徴をよく示している。

旧阿仁鉱山外国人官舎

竣工:1882年  所在:秋田県北秋田市阿仁銀山字下新町

阿仁鉱山は古く中世には金山として採掘がはじまるが、後に日本一の銅の産出量からその名を知られた鉱山である。維新後に官営鉱山となり、御雇外国人を招いて近代化が推し進められた際に建てられたのがこの外国人官舎で、イギリス積のレンガ造に鎧戸を付けた上げ下げ窓を各所に穿ち、中央に2つ配した暖炉を中心に漆喰塗仕上げとした5室から構成される。四周には軒の出の深いベランダを巡らせており、コロニアル様式の典型を示す。

東光園

設計:菊竹清訓  竣工:1964年  所在:鳥取県米子市皆生温泉

建築家・菊竹清訓の傑作である皆生温泉に建つホテル。最大の特徴は稀に見る構造形式で、主柱の周りに4本の添柱で構成した6つの組柱で大空間が必要なロビーなど3階までの下層階を支え、主柱だけを7階スラブまでのばして舟肘木状の端部として上部をシェル構造で軽やかに覆い、5,6階の客室は逆に吊り下げる造りとして両者の間となる4階を壁のない「空中庭園」とする。柱とスラブによる複雑な組成によるダイナミックな表情は一見の価値がある。

おりづるタワー

改修設計:三分一博志ほか  竣工:1978年、2016年(改修)  所在:広島県広島市中区大手町

1階のショップ、12、13階の展望スペースからなる観光施設と他の中間層をオフィスとして原爆ドーム・広島平和記念公園に近接して設けられた複合施設。無骨なストラクチャーの上部に載せられた木造のキャノピー、曲線を多用した展示空間、下層と上層を直接つなぐスロープが取り合わされた剛と柔・重と軽のフォルムが併存する。「広島東京海上ビル」として建てられた既存建物のコンバージョンによって時代を重ねた多彩な表情を湛えている。

木村産業研究所

設計:前川國男  竣工:1932年  所在:青森県弘前市大字在府町

昭和を代表する建築家・前川國男の処女作にして、日本でインターナショナル・スタイルに通ずるモダニズム建築の最初期の事例となる近代日本建築史上の重要な作品。それはラーメン構造の柱・梁の構成において外法合わせとした外壁が平滑な白い箱型のフォルムを採り、広く大きい開口から豊かな光が入る透明度の高い造りとすることに象徴される。社長室のカーテンウォールや階段の踊り場を湾曲させるディテールに単に機械的でない情緒も香る。

旧石川県第四中学校校舎(現・小松高等学校記念館)

竣工:1899年  所在:石川県小松市丸内町二ノ丸

明治時代に建てられた尋常中学校創設時の木造校舎の遺構で、下見板張りに上げ下げ窓を並べた瀟洒な意匠を持つ。内部には階段教室も置かれていたといい、1895年にまとめられた『学校建築図説明及設計大要』との共通点も認められる。1999年に行われた100周年記念事業で記念館として整備され、学校の歴史や著名な卒業生の事績が展示されている。文化財としては未指定・未登録というのは驚くばかりで、石川県の歴史・文化の重厚さを思わせる。

旧近衛師団司令部庁舎(現・東京国立近代美術館工芸館)

設計:田村鎮  竣工:1910年(1972年改修)  所在:東京都千代田区北の丸公園

大日本帝国陸軍において天皇と皇居の警護にあたった近衛師団の司令部庁舎で、玄関両脇にイオニア式オーダーを並べてペディメントを掲げたネオ・ルネサンスのプロポーションに全面にバットレスを纏い、尖頭アーチを用いたゴシックとの折衷様式の建築意匠を持つ。内部は躯体を鉄筋コンクリート造で補強した近代建築の保存再生事例の最初期のもので、中央階段周囲のみだけに往年の装いを見ることが出来る。

新宿御苑旧洋館御休所

設計:片山東熊  竣工:1896年  所在:東京都新宿区内藤町

新宿御苑内にて、皇族が苑内の温室を使用する際などに休憩所として用いられた建物である。軒下に配されたパージボード等にアメリカのコロニアル様式の意匠を認めるもので、小規模ながら密度の濃い品のあるたたずまいを持つ。後方の壁に囲まれた閉鎖的な箇所に脱衣室や浴室を置き、正面左右に並ぶ居間や食堂にはガラスの入れられた建具が外周に沿って並ぶという開放的かつ透明度の高い造作を示す。ポーチやベランダに円形を用いるのも特徴。

多久聖廟

建立:1708年  所在:佐賀県多久市多久町

多久邑の4大領主・多久茂文が開いた邑校「東原庠舎」に設けられた孔子像を祀る霊廟。基壇の上に入母屋造平入の朱塗とした堂舎を構え、ここに精緻な彫刻を木鼻や蟇股などに纏わせていることは近世社寺に共通する建築意匠を示す。全体は和様を下地に禅宗様に近しい意匠を加味した構成だが、下層を吹き放ちとする開放的な造りとし、後方に神社本殿を思わせる張出部を持つなど、本建物特有の構成による独特な堂舎となってまとめられている。

三重大学レーモンドホール

設計:A.レーモンド  竣工:1951年  所在:三重県津市上浜町

はじめ三重県立大学の図書館として建てられ、キャンパスの移転と共に現在地に移築再建されて、以降は三重大学の交流施設として使用されている。柱、桁、登梁、方杖、火打梁など、部材に丸太材を用いて組み上げたシンプルな軸組に緩勾配の切妻屋根を架けて周囲にガラス戸を入れた開放的な造りとする。一見すると山荘風だが、架構式構造による透明度の高い造りから両者が混然となったA.レーモンドらしいモダンな空間が織り成されている。

脇田山荘(軽井沢の山荘B)

設計:吉村順三  竣工:1970年  所在:長野県北佐久郡軽井沢町旧道

画家・脇田和の自宅兼アトリエで、東京美術大学の同僚でもあった吉村順三設計の名作住宅。現在は脇田美術館もたつ広大な敷地に、湿気を考慮してピロティで床を掲げ、生活部分とアトリエを左右に隔てて全体をくの字型とした浮遊感のある住まいである。1階のボイラー室で暖めた空気を床スラブを通し、くの字の外側となる壁下のスリットから吹き上げ、天井をなぞるようにして内側の開口部から取り込む先進的な循環式暖房システムを採用している。

栃木県庁舎昭和館

設計:佐藤功一  竣工:1938年  所在:栃木県宇都宮市塙田

栃木県4代目の県庁舎で、本館建設に合わせて正面中央部分のみを曳家して現在に至る。昭和戦前期の県庁舎らしく

ネオ・バロック様式による歴史主義建築のプロポーションを持つが、簡略化したイオニア式オーダーを用いるなどに当時代らしい細部装飾の柔軟なデフォルメが認められる。内部中央の大階段の豪壮な構えや壁・床に用いられた小割タイルの張り付けのディテール、政庁等の壮麗なインテリアに活用しながら歴史・文化を守り伝える気概が息づく。

瑠璃光寺五重塔

建立:1442年  所在:山口県山口市香山町

室町時代から戦国時代にかけて周防(現在の山口県)を中心に広範囲を治めた大内氏によって創建された香積寺に建立されたことにはじまり、所領が毛利家となった後に瑠璃光寺となって今に至る。中央に心柱を建て、それを囲う軸部は和様とし、檜皮葺で軽やかに軒先を掲げた五層の屋根に禅宗様の趣を併せ持つ。法隆寺と醍醐寺と並び「日本三名塔」と呼ばれるに相応しく、池越しに臨む優美で流麗なたたずまいは極めて美しい。

清林館高等学校円形校舎

設計:坂本鹿名夫(増築?)  竣工:1971年 (?)  所在:愛知県津島市本町5丁目

1926年に縫製女学校として創立し、1948年から女子高(2001年に共学となり、現校名に改称)となった同校で長い間シンボルとなってきた円形校舎である。はじめ2階建であったのを後に体育館を載せた5階建へと増築し、この時上階に向かって直径を大きくする造りとしたために周囲を取り囲むように柱と円形のリング状の梁による骨組架構が露出したシンボリックな造形になった。竣工年や設計者をはじめ謎が多く…梅宮先生の研究成果に期待したい。

十和田市現代美術館

設計:西澤立衛  竣工:2008年  所在:青森県十和田市西二番町

十和田市が進めるアートによるまちづくり「Arts Towada」の拠点として建てられた美術館。独立したホワイトキューブの展示空間に1つずつ美術作品を置き、それをガラスの廊下で繋ぐという構成で明るい開放的な美術館となっている。独立したキューブは森山邸の延長を思わせ、それをガラスの通路で繋いだ流動的な動線は後の軽井沢千住博美術館に見られる自由な動線形態へと展開してゆく、建築家・西澤立衛の作風の推移を読み取れよう。

大阪府庁舎本館

設計:平林金吾・岡本馨  竣工:1926年  所在:大阪府大阪市中央大手前

後に名古屋市庁舎も手掛けたことで有名な平林金吾の設計による大阪府3代目庁舎で、関東大震災直後という背景から堅牢に造られたこともあって現役使用の都道府県庁舎では最も古い。後方に議場を置くE字型をした形状で、中央に二手に分かれる大階段を持つなど当時の府県庁舎に広く採られた平面構成を持つ。アールデコ風の蛇腹を持つ柱型状のフレームで割り付けて精緻な彫刻も備える重厚さの中に軽妙な意匠を併せ持つ大阪府の顔たる庁舎である。

宮城県図書館

設計:原広司  竣工:1998年  所在:宮城県仙台市泉区紫山1丁目

郊外の閑静な住宅地に建てられた図書館。チューブ状のボリュームを掲げて、全体を長大な矩形形状のボリュームとした近未来的なフォルムを持ち、自然豊かな傾斜地に飛来してきたかのような風景を魅せる。エントランスを入ってすぐを広大な吹抜空間とし、中央にはイベントなどに用いるために敷地形状に合わせて階段状に窪めた「地形広場ことばのうみ」を連ね、その大胆な空間構成に建築の力強さと存在感で圧倒される。

国史館(旧台湾総督府交通局逓信部庁舎)

設計:森山松之助  竣工:1924年  所在:台湾・台北

旧台湾総督府庁舎の後方に位置する旧逓信部庁舎。初層を基壇状に掲げ、2,3層をコンポジット式のジャイアントオーダーで貫くネオ・バロック様式でまとめられた流麗な意匠で、中央に大階段を構える昭和戦前期の庁舎に共通する平面構成を有する。現在は国史館として、台湾の総統・副総統に関わる展示のほか本建物に関する展示室などが配されている。4階部分の大ホールは後年の増築で、今回のシンポジウムの会場として講演を行った建築でもある。

インマヌエル船橋キリスト教会コミュニティ・チャペル

設計:室伏次郎(スタジオアルテック)  竣工:2017年  所在:千葉県船橋市海神2丁目

道路拡張による移転で献堂されたプロテスタント教会のチャペル。内陣よりスリットで十字に光を入れるなど、礼拝堂は間接光による暖かで神々しい空間が広がり、玄関ホールを挟んで位置するフェロシップホールは東西で角度を違えて斜めに配した打放しコンクリート壁列と木調の内装による柔らかく穏やかな空間…長い経験に裏打ちされた堅実なディテールで形づくられた豊かな建築。今村教授のお誘いに室伏先生の解説での見学…感謝ばかりです。

旧田中家住宅

設計:櫻井忍夫(洋館)  竣工:1923年(洋館)、1934年(和館)  所在:埼玉県川口市末広1丁目

味噌醸造と材木商で財を成した4代目田中徳兵衛が迎賓館となる洋館を建て、後に和館を後方に増築した「和洋館並列型住宅」。レンガをイギリス積で積み重ね、セセッションの意匠でまとめた洋館内を壮麗な階段で各階をつなぎ、3階の大広間のほか壮麗な諸室を構え、かつ2階には黒柿の床柱が見事な和室も組み込まれている。後方の和館は、当時代を象徴する銘木をふんだんに用いた近代和風建築で、その美しい趣を高める設えでまとめている。

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