Pick up Archi!! - 2014
米子市公会堂
設計:村野藤吾 竣工:1958年 所在:鳥取県米子市角盤町
ホール棟と管理棟を機能的に隔て、また、建築は柱・梁からなるダイナミックな構造美を表現する。村野藤吾作品では意外な合理性に基づく純然たるモダニズム建築でありながら、山陰地方特有の石州瓦をタイルに用い、緩やかに湾曲する壁面表現は、いかにもな村野らしさも併せ持つ。村野自身の設計によって1980年に大規模改修を経てきた歩みも特色。2014年には耐震改修も完了し、地域のランドマークとして再び新たな歴史を紡ぎ出す。
カトリック松が峰教会聖堂
設計:M.ヒンデル 竣工:1932年 所在:栃木県宇都宮市松が峰
東武宇都宮駅からすぐのところにある宇都宮のランドマークともいえる教会堂。産地が近いこともあって、聖堂は大谷石を外装に全面的に用いている…まるで組積造のようにすら見えるが、躯体は鉄筋コンクリート造。正面に双塔を構えたバシリカ形式になるもので、国内では数少ないロマネスク様式のお手本のような教会堂。
宇治山田駅
設計:久野節 竣工:1931年 所在:三重県伊勢市岩渕
伊勢神宮の玄関口となる120mにも及ぶ長大な駅舎。その玄関口としては、ミスマッチとも見えるかもしれない近代的な駅舎は、テラコッタを用いてスパニッシュ風を思わせる、素材・デザイン共に昭和初期の流行がよく投影されたつくりである。1階は広くゆったりとしたコンコース、改札やホームは3階部分に相当する高架駅で、ホームに架け渡された鉄骨屋根も何とも上品な仕上がり…旅情をそそらせる、ここにしかない魅力的な駅舎である。
北海道庁旧本庁舎
設計:北海道庁土木課(平井晴二郎) 竣工:1888年 所在:北海道札幌市中央区
北海道庁の庁舎として建設され、明治時代末頃の火災・復旧を乗り越えて、今に伝え残されてきた北海道を代表するランドマークとなる赤レンガ庁舎。隣接して北海道庁舎が建設された現在は、道立文書館や歴史ギャラリー、記念室(旧北海道庁長官室)などとして多目的に活用されている。
梅田スカイビル
設計:原広司 竣工:1993年 所在:大阪府大阪市北区大淀中
JR大阪駅からも近いところにある大阪のランドマーク。タワーイーストとタワーウエストの2棟の頂部を空中庭園展望台が連結するという大胆な構造で、高さ173mに及ぶビルの最上層にポッカリと円形の穴があく造形が独特な表情を織り成している。展望台からは360°に渡って大阪市街を遠望できるが…冬空の下に訪れるとかなり冷えるので注意。
大報恩寺本堂(千本釈迦堂)
上棟:1227年 所在:京都府京都市上京区
応仁の乱の被災からも逃れ、創建時のまま現在にまで伝わる洛中(京都市街中心部)で最古の建造物。小屋組に桔木を備え、中世の建築技術を伝える点でも最古級の建造物だが、プロポーションは全体的に屋根面が低いことから水平性が強く、流麗で優雅な雰囲気を纏っている。近代的な町並の中にポツリと控えめだが、それでいて800年近くに及ぶ年層が与える確かな存在感こそが、京都の街を象徴する建築であることをよく伝えている。
JR門司港駅
設計:鉄道員九州鉄道管理局工務課 竣工:1914年 所在:福岡県北九州市門司区西海岸
九州の玄関口として、ランドマークになっているレトロな駅舎。始発・終点の駅らしく、長いプラットホームの突端に、ルネサンス様式をベースとした古典主義様式の装いを纏い、華麗にたたずむその姿は、旅を演出する名役者。駅舎は内観もよく保存されていて、外観の重厚さに比べて鮮やかに彩られた木調による軽快な雰囲気も魅力的。駅員さんの制服は本駅オリジナルで、そのレトロな装いにも注目。※平成30年完工予定で保存改修工事中のため外観見学は不可です。
坂出人工土地
設計:大高正人 竣工:1968年 所在:香川県坂出市京町
都市中心部の再開発に合わせて、都市における人・物の集約への対応を図るために試みられた人工地盤の上に集合住宅を構築するという前代未聞の意欲作。人工地盤の下は、市営駐車場と飲食店が連なるアーケードとし、上層の集合住宅がリズムよく並ぶ様は積層した路地空間。後には市民ホールも増築され、この屋根の上にすら段々状に集合住宅を並べる徹底ぶり…人工地盤上は街路なのか?敷地なのか?こうした線引きの曖昧な面が魅力的なのだろう。
萬福寺本堂・雪舟庭園
本堂建立:1374年 築庭:1479年 所在:島根県益田市東町
石見・益田の地を治めた益田氏の菩提寺として室町時代に建立された古刹。本堂は、向拝も付さない閑静で慎ましい和様による建築で、軒下に並ぶ疎に並べられた平行垂木(疎垂木)が中世石見・周防の地域性を伝えている。雪舟が築庭したと伝わる池泉と石組で須弥山を表現した庭園が本堂裏手に備わっており、本堂と共に境内景観を織り成している。17世紀頃の建立を思わせる山門の独創的なグラフィカルな絵様・彫刻も見逃しがたい。
旧徳川家住宅松戸戸定邸
竣工:1884年 所在:千葉県松戸市松戸
江戸幕府15代将軍・徳川慶喜の実弟であり、水戸藩最後の藩主(11代藩主)であった徳川昭武の邸宅で、後に松戸市に寄贈されて、戸定が丘歴史公園として今に至っている。明治時代前期の上流階級の邸宅として、複数の棟が接続して全体を構成する近代和風建築の代表事例の1つ。特に庭園は国内でいち早く芝庭を採り入れた洋風を加味したものとして整えられており、近代日本庭園史上においても重要な遺構として知られている。
名古屋市東山植物園温室前館
設計:名古屋市建築課 竣工:1937年 所在:愛知県名古屋市千種区田代町
名古屋市東山動植物園の開園に合わせて建設された同植物園の温室。建築は温室らしいといえば温室らしく、壁から屋根まで鉄骨トラスによって構成された全面ガラス張になるガラスの宮殿で「東洋一の水晶宮」とも喧伝された、国指定重要文化財にもなっている国内を代表する近代化遺産の1つ。ひときわ大きい中央部分が「中央椰子室」、東側に「シダ室」、西側に「多肉植物室」を並べ、それぞれを廊下状に設けた「花卉(かき)陳列室」で接続する形式を採っている。
古川市民会館(現・大崎市民会館)
設計:武基雄 竣工:1966年 所在:宮城県大崎市古川北町
四隅に設けた三角形をした大振りなRC壁面で天井を吊り下げることでホールの無柱空間を実現したダイナミックな構造形式が魅力的な市民会館…どことなく時代を感じさせる宇宙基地のようなフォルムも存在感がスゴイ‼構造形式を主体とした計画のためにホール・ホワイエの内部空間はやや窮屈な印象もあるが、ステージと客席の距離が近く、ホール空間の一体感は地域に根付く市民ホールらしいまとまりを見せている。
関宮エイドホール(関宮山村開発センター)
設計:安田臣 竣工:1971年 所在:兵庫県養父市関宮
山間地域におけるモダニズム建築との邂逅-それが山村開発(活性化)のために1970年前後に全国各地方に設けられた山村開発センター。西日本各地の山村開発センターを中心的に手掛けた安田臣の作で、ホール・会議室・結婚式場・郷土資料室・図書室・青年の家…ありとあらゆる生活文化施設が内包されたコンプレックス。打放しコンクリートによる複雑で無機質な外形の中に鮮やかなモザイクタイルをあしらわれたロビー…建築もコンプレックスで妙味に溢れる。
西日本シティ銀行本店
設計:磯崎新 竣工:1971年 所在:福岡県福岡市博多区博多駅前
博多駅前に鎮座する異色の銀行建築。赤褐色の石貼りとした外観もさることながら、銀行建築のためか壁面の存在感が目立つ閉鎖的な造形としておきながらも、巧みな開口部の形状・配置のバランスや外装材の使い分けで重厚であり、軽妙さも兼ね備えた…「粋な九州男児」。磯崎新の初期作品に代表されるプロセス・プランニング論から継承する箇所として、建築・空間の広がりを切断して魅せた、足元に備えられた巨大な大砲のような造形にも圧倒される。
東華菜館
設計:W.M.ヴォーリズ 竣工:1926年 所在:京都府京都市下京区四条大橋西詰
多作で知られるヴォーリズ作品でもひと際異彩を放つ中華料理店。建築の内外はこれでもかとばかりに精緻な彫刻が散りばめられ、イスラム調が混在したスパニッシュ・バロックとも言われる意匠を纏う様子はラテン的な軽快さと華やかさを併せ持つ。中華なのにスペイン?というのは、元々牡蠣料理専門店の時に建築されているからで…ところどころに海産物を象った彫刻が目に嬉しい。年季の入ったレトロなエレベーターが現役で稼働しているのもスゴイ‼
栗林公園・掬月亭
竣工:江戸時代初期 所在:香川県高松市栗林町栗林公園内
高松藩松平家下屋敷庭園 ― 今の栗林公園の中に江戸時代初期に建築された「大茶室」で、公園を彩る中心施設として多くの人が穏やかな一時を過ごす。杮葺の緩やかな屋根をかけた開放性の高い数寄屋風書院の造りになる座敷で、池に迫り出し、柱・長押で額縁のように切り取った先に映る妙景は麗しく、そして涼しげな風が心地よい。周囲の庭園景観に溶け込み一体化した装いは、まさに「ニッポンのケンチク」といってよい逸品。
旧倉吉市立明倫小学校円形校舎
設計:坂本鹿名夫 竣工:1955年 所在:鳥取県倉吉市鍛冶町
昭和30年代に円筒状の学校建築が全国各地にお目見えする ― それが坂本鹿名夫が提唱した「円形校舎」。中央に丸鋼で囲まれた特徴的なデザインである螺旋階段、それを取り巻くように扇形形状の教室が配置された独特な形状が流行を見せたのは今や昔。類例は次々と失われ、3番目の作例で最も古い遺構となるのが本作で、小学校校舎であったのも今や昔…この貴重な文化資産を継承できるかどうか、その道のりは険しく厳しい(頑張ります‼)。
Fギャラリー
設計:北山孝二郎 竣工:2003年 所在:埼玉県川越市元町
重要伝統的建造物群保存地区に選定される川越の「見世蔵の町並」に連なる鉄筋コンクリートの現代版町家…これでも歴史的町並の修景基準に基づく「合法ケンチク」である。周囲の町並の中で異彩を放つたたずまいの賛否が問われてきたが…修景の進む川越の町並が古きも新しきもが見分けがつかぬほどに同じ様になってきた中で、「真」とは何かを問いているようにも思えてならない。果たして「危険ケンチク」なのか、自身の中にも答えはまだ出ていない。
ザ・プリンス箱根(旧箱根プリンスホテル)
設計:村野藤吾 竣工:1977年 所在:神奈川県足柄下郡箱根町元箱根
日本を代表する名建築家の1人である村野藤吾による晩年に設計された代表作の1つ。軒の出を深く伸ばし、階高を抑えた控えめなファサードから芦ノ湖畔までの斜面の高低差を活かして奥へと誘い、2つの円環に及ぶ入り組んだプランニング。ロビーに象徴される豊かなインテリアの表情が、その迷宮性ある建築に多彩な建築美を添えて…ケンチクを取り巻く内外を巧みに連ねて敷地と一体化させて構成された、村野藤吾の手腕が存分に発揮された名建築。
鳥取東照宮(旧名称:樗谿神社/因幡東照宮)
上棟:1650年 所在:鳥取県鳥取市上町
曾祖父でもある徳川家康を崇めるために初代鳥取藩主・池田光仲によって造営された。池田家は元々織田家次いで豊臣家の家臣であったため、東照宮の建立は幕府への恭順を示すためとも言われる。本殿は3間社流造で、今は剥げ落ちて素木に見えるが、元々は絢爛豪華な彩色が施されていた。東照宮に多い権現造とは異なり、本殿が拝殿・幣殿と接続しない造りとするが、拝殿背面に幣殿が凸型に張り出した造りは地域性を表しているように感じられる。
フォレスト益子
設計:内藤廣 竣工:2001年 所在:栃木県芳賀郡益子町大字益子
全国有数の陶芸の里である益子の中心部からさほど奥まったところにある県立自然公園「益子の森」の片脇にある宿泊施設。緩やかに湾曲した建築を、前に事務室・資料室、背面に宿泊棟を2棟並べた構成とし、周囲景観に溶け込みつつも品ある優雅なたたずまいを織り成している。宿泊室は片流れの屋根を活かしたロフトのあるメゾネットタイプのツインルームで、夜には星の煌めく、静かで緩やかな時間を演出してくれる。
北口本宮冨士浅間神社
建立:1615年(本殿)、1739年(拝殿)、1561年(東宮)、1594年(西宮) 所在:山梨県富士吉田市上吉田
富士山の神霊を祀り、吉田口登山道のスタートになる神社で、杉並木の並ぶ参道の奥に鎮座する社殿は背筋も改まる霊験あらたかな佇まいである。本殿両脇の東宮・西宮は朱塗でありながら彫刻・彩色の控えめな室町期の意匠、本殿は華やかながらも彩色を主体とした近世初期の意匠、拝殿は胡粉による彫刻を主とした近世中期の意匠をそれぞれ纏い、年代ごとによる建築意匠の違いを間近に見られる、彩り麗しき神社建築である。
せんだいメディアテーク
設計:伊東豊雄 竣工:2000年 所在:宮城県仙台市青葉区春日町
仙台の中心部である定禅寺通りにある図書館やギャラリーなどを内包した複合文化施設。ガラスのハコの中を貫いて13本のチューブが並ぶ様子が特徴的で、その中にはエレベーターや階段、設備関係を収める機能を持つと共にそれそのものが建築構造をなす。これは一般的な柱・梁からなるラーメン構造とは異なる新しい建築形式を試みた先鋭的な挑戦であり、伊東豊雄の師・菊竹清訓の代表作「東光園」を鉄骨造へと読み替えたオマージュとも読める。
風見鶏の館(旧トーマス邸)
設計:ゲオルグ・デ・ラランデ 竣工:1910年頃 所在:兵庫県神戸市中央区北野町
かつてドイツ人貿易商G.トーマスが住んだ神戸・異人館の町を代表する邸宅で、塔屋の上に付された風見鶏に因んで「風見鶏の館」と呼ばれる。2階外壁のハーフティンバーや食堂の根太天井などチューダー様式を主体としつつ、細部意匠にアールヌーヴォーになる新しい装飾を併せ持つ。サンルーム状のベランダを有するなどコロニアルスタイルの特徴も併せ持つ、後の時代に現れた洗練された意匠を持った「ハイスペックな異人館」である。
角屋
竣工:1641年 所在:京都府京都市下京区西新屋敷揚屋町
かつての島原の地に現存する唯一の揚屋の遺構。揚屋は遊郭の中にあって、置屋から招いた上流遊女と「遊ぶ」ための建築であり、今でいう料亭に近いことから、格式高い座敷の数々に加えて大規模な台所を併せ持つことを特徴とする。非日常の華やかな空間を彩るための意匠だけに限らず、近世期の町家では希少な総2階建とし、また庇を大胆に迫り出し、縁の柱を除くなど高い建設技術がふんだんに採られていることに注目したい。
南丹市美山町北伝統的建造物群保存地区
所在:京都府南丹市
京都府の北部、由良川沿いの山間に、厳冬には雪も降りしきることから勾配の高い入母屋屋根とし、いずれも南面を向けて織り成された茅葺屋根の群生。集落約50棟のうち38棟が茅葺屋根を載せる密度の高さといい、土産物販売店が軒を連ねるような無目的な観光地化を行わないことを規範とする通念といい、日本の原風景を維持し、継承していくための誇り高さを併せ持った、まさに「日本一の茅葺集落」。
明通寺
本堂:1265年建立、三重塔:1270年上棟、山門:1772年建立 所在:福井県小浜市門前
小浜市の南東に位置する真言宗の古刹。山門を潜った先に、共に鎌倉時代に建立された本堂・三重塔が鎮座し、いずれも和様を基調としつつ、本堂は緩やかな湾曲を持つ海老虹梁(絵様から江戸中期の後補かも)など禅宗様の要素を、三重塔には三手先組物の突端に拳鼻を備えて大仏様の要素を見せており、本堂内部を内陣・外陣とで明確に隔てることと併せて、中世寺院建築の特徴を明快に示している。
旧亀岡家住宅
設計:小笠原国太郎 竣工:1897年頃 所在:福島県伊達市保原町大泉(桑折町より移築)
蚕種製造で大財を成した亀岡正元の住まい。保原総合公園内に移築され、伊達市保原歴史文化資料館に併設する形で展示・イベント施設として公開・活用されている。外観はガラス窓・銅板を貼った壁、そして中央に八角形状の塔屋をシンボリックに構えるが、内部は種々の銘木で床・棚・書院を備えた座敷が複数配された豪奢な造り。大工棟梁が伝統の木造技術・住宅観を下地に欧米の住まいを実現させた、いわゆる「擬洋風建築」の最高峰となる逸品である。
市村記念体育館
設計:坂倉準三 竣工:1963年 所在:佐賀県佐賀市城内
郷土出身の市村清(リコー社長)の寄贈でつくられた、佐賀城址の中にある恐竜のタマゴ?それともナマコ?そんな奇怪な形状をしたRC造打放しの体育館。その独特な形状は、外周を同時期に流行した折板構造で構築し、屋根・天井をシェルで覆い被せることによって体育館に必要な大空間を実現する。コンクリートの可塑性を最大限に活かしたデザインとダイナミックなプロポーション、さらには両側面に延びる雨樋もコンクリートで一体化したディテールなど魅力も多い。
丸亀城
竣工:1602年 所在:香川県丸亀市一番丁
現存天守12城の1つ。現在の天守閣は独立式層塔型で、縄張・城郭形式は輪郭式の平山城に分類される。元々この地にあった亀山に築城したために石垣は総高60メートルに及ぶ日本一の高さを誇り、それでいて天守閣は現存12天守の内で最も低く、中世山城に近いたたずまいを併せ持つ。天守閣は3層からなり、初層は南北面に唐破風、二層目は東西面に千鳥破風を備える程度の外観も簡素な造りで、一見すると隅櫓のようにも見える。
耕三寺
創建:1936年 所在:広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田
瀬戸内海に浮かぶ生口島の北西部に位置し、金本福松(金本耕三)が母の菩提を弔うために、その邸宅脇に開基した浄土真宗本願寺派の寺院。中門は法隆寺、五重塔は室生寺、本堂は平等院鳳凰堂などと国内の優れた歴史的建造物を模し、なおかつ相応のアレンジを加えた堂宇を並べ、とりわけ日光東照宮陽明門を模した孝養門を備えることから、通称「西の日光」との別名を持つ壮大な寺院建築である。
朝倉彫塑館(旧朝倉文夫邸)
竣工:1935年 設計:朝倉文夫 所在:東京都台東区谷中七丁目
我が国を代表する彫刻家である朝倉文夫がアトリエ・住居を自らの設計により完成させた、戦前の中流住宅では希少な黒いモダニズム建築を携えた、モダニズムと数寄屋による近代和風建築を併せ持つ和洋館ならず「和モダニズム並列型住宅」。庭園もまた独創的なもので、地表面がほとんど見られない池泉・沢飛で築かれたアトリエ・住居に囲まれる中庭に加えてアトリエ屋上に「空中庭園」を備えており、「和モダニズム並列型庭園」となる珍しい構成を織り成している。
鈴木大拙館
竣工:2011年 設計:谷口吉生 所在:石川県金沢市本多町
郷土出身の著名な仏教哲学者である鈴木大拙の思索や足跡を広く見聞するために開設された文化施設。いかにも谷口吉生らしいデザインを特徴づける浅く静かな水面を湛え、その「水鏡の庭」を囲むように施設を配した構成とする。鈴木大拙の書・写真などの展示閲覧を経て、「水鏡の庭」に張り出したシンボリックな形状となる「思索空間棟」に至り、清廉でいて清冽な思いに浸る。晴天・雨天、四季の移ろいもまた、建築の情景を添える豊かな建築である。
旧小熊邸(現ろいず珈琲館 旧小熊邸)
竣工:1927年 移築復原:1998年 設計:田口義也 所在:北海道札幌市中央区伏見
元々札幌駅から西方、地下鉄東西線西18丁目駅からほど近いところにあった北海道大学農学部教授小熊桿の住まいで、F.L.ライトの弟子・田口義也の設計によって幾何学的なライト式のデザインでまとめられている。当時は円山村であったこの地も都市開発の中で新たになることが迫られ、署名運動等による保存活動の末、もいわ山の山裾に移築復原がなされ、喫茶店として新たな息吹を宿した。近代建築保存の歴史から見ても意義深い建築である。
旧立花伯爵家住宅(現旅館御花)
竣工:1910年 設計:西原吉次郎、亀田文平、亀田友次郎 所在:福岡県柳川市新外町
正面に迎賓館であったネオルネサンス様式になる洋館、背面に広大な座敷と居住棟からなる和館が中庭を挟んで連なる「和洋館並列型住宅」の形式を採る。和館の座敷に面して、日本三景の1つ宮城・松島の景観を模したという池泉庭園「松濤園」を備えており、近代日本の邸宅建築の代表格といえる魅力的な建築である。かつて柳川藩主であった立花家の邸宅であり、戦後より観光旅館となり現在に至っている。
宮内庁庁舎(旧宮内省庁舎)
竣工:1935年 設計:宮内省内匠寮 所在:東京都千代田区皇居内
関東大震災により焼失した宮内省庁舎(J.コンドル設計、1888年)に代わり、震災復興の中で皇居内に新たに設けられた庁舎。セセッションの躯体に勾配屋根を載せた帝冠様式を採り、加えて軒下に並ぶ腕木・出桁・垂木を平滑にデフォルメしたデザインを備え、いかにも昭和戦前期らしい装いを纏っている。戦災によって焼失した宮殿に代わり3階部分が仮宮殿となり、その後、宮内庁庁舎として現在に至っている。
浄土寺浄土堂
建立:1197年 設計:俊乗坊重源 所在:兵庫県小野市浄谷町
東大寺再興事業のための「播磨別所」として俊乗坊重源によって建立された阿弥陀堂で、中国・宋と伝わる建築様式を下地にした「大仏様」を採り、国内でも2つしかない内の1つ。貫や挿肘木など柱にホゾ穴で差し込む部材により長大なスパンを飛ばし、天井を張らないことからも伝統的な木造建築にあって、ダイナミックな構造によるボリュームある内部空間を構成している。また、軒先に鼻隠板を備え、四隅を扇垂木とすることも「大仏様」の特色である。
尾道市庁舎
竣工:1960年 設計:増田友也 所在:広島県尾道市久保
今なお活動に謎が多い魅惑の建築家で、生誕100周年を迎えて再評価が高まりつつある増田友也によるごく最初期の建築作品。各階にバルコニーを取り回すことにより、水平性が強調されたフォルムは同年代の庁舎建築でも類例が少なくないが、1,2階はバルコニーの裏面の小梁を露出し、真壁風に柱心と開口部を合わせ、3階以上はバルコニー裏面を塞ぎ、水平連続窓を柱外周に回して浮遊感を表出する…実に難解。目下、解明すべき課題である。