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Pick up Archi!! - 2015

尾道市公会堂

設計:増田友也   竣工:1963年   所在:広島県尾道市久保

埋め立てたばかりの敷地に建てるために、当時流行の折板構造によって軽量化と大空間の実現を図った。正面にたつ尾道市庁舎(増田友也設計、1960年)と同一スパンとなる門型のフレームを全面的に割り付けたデザインとすることで、折板構造にありがちなトゲトゲしいボリュームを忌避し、かつ調和するようボックス状にまとめあげている。尾道水道に面して市庁舎と公会堂が並び立つ様は厳島神社の荘厳さすら感じられようか。

善光寺本堂

設計:甲良豊前宗賀(幕府作事方大棟梁)   建立:1707年   所在:長野県長野市元善町

創建以来1400年を数え、長野駅から北に真っ直ぐに参詣道が延びる「長野の顔」となる古刹。本堂は高さ約27m、間口約24mで、国宝の木造建築では全国3番目の大きさを誇るという。特徴的なのは約53mに及ぶ長大な奥行で、入母屋造妻入部が奥へと延び、入母屋造平入部とT字型に接続する「撞木造」という特異な形式を採る。平面構成も外陣、中陣、内陣、内々陣という全国唯一のもので、近世期に生まれた新たな仏堂形式を示している。

吉島家住宅

設計:西田伊三郎   竣工:1908年   所在:岐阜県高山市大新町

飛騨・高山の歴史的町並の中にたち、日本の伝統的な商家建築の中でも抜群の知名度を誇る。建築そのものは厨子2階建の伝統的な町家のプロポーションを採るが、明治時代末の近代和風建築らしく、良質な木材を精巧に組み合わせた端麗な表情を織り成している。その最たるは土間上にグリッド状に張り巡らされた梁組と高窓から差し込む光に演出されたコンポジションで、神性すら漂い、そしてただ美しい。

シルバーハット

設計:伊東豊雄   竣工:1984年(2011年移築)   所在:愛媛県今治市大三島町浦戸

建築家・伊東豊雄の旧自邸。3.6mスパンのコンクリート柱の上に鉄骨フレームによるヴォールト屋根が幾重にもフワリと載せられており、モダニズム建築の重厚さ・1970年代の閉鎖的な住居という潮流から飛躍するかのように、浮遊感ある軽やかさをエキスパンドメタルとテントというそれまでにない建築材料で表現し、新たな境地を拓いたポストモダンの代表作の1つ。伊東豊雄建築ミュージアム開館に合わせて、東京・中野から瀬戸内海・大三島に移築された。

砺波郷土資料館(旧中越銀行本店)

竣工:1909年(1979年移築)   所在:富山県砺波市花園町

入母屋造妻入・土蔵造の重厚なプロポーションに外壁をタイル貼りとした明治期特有の和洋が混在した外観を織り成す。一方、内部は2層吹抜でカウンターを回し、オイル塗装による艶やかな木調を主体に、天井に大面で貼ったクロスによる純度の高い洋風の設えとした旧銀行建物で、和風が根強く残った外観が特徴的であり、洋風化の歩みの多彩さを伝える。現在は郷土博物館として近代建築を移築・コンバージョンした国内でも比較的早い事例の1つである。

菊屋家住宅

竣工:17世紀中頃   所在:山口県萩市呉服町

萩藩の御用商人としての歴史を持つ旧家で、全国でも最も古い時代となる17世紀中頃の町家を含む広大な屋敷建物を備える。約50mにわたって主屋・長屋門が連なる豪壮な佇まいも見事だが、奥行約100mに及ぶ腰に四半張の海鼠壁を配した白壁が連なる様子は圧巻で、敷地内には書院や土蔵が肩を寄せ合うように並び、伝統的な町家建築特有の表情を示す。敷地後方の新座敷とその庭園は春季・秋季の特別公開で広大な回遊式池泉庭園が異なる表情を魅せる。

憲政記念館(旧尾崎記念会館)

設計:海老原一郎  竣工:1960年   所在:東京都千代田区永田町

国会議事堂の斜向かいとなる国会前庭(北庭)に隣接して位置する。「憲政の神様」こと尾崎行雄を顕彰する尾崎記念会館として開館していることから中央の池には氏の銅像が置かれる。この池を挟み南北に分かれており、北側に展示施設、南側に講堂・食堂を置く。講堂の屋根は、柱無空間をなすために折板構造を採ることをはじめ、肘木状に小梁を張り出すこと、グリッド状に縁取った中に那智黒石を敷き詰めるなど当時の流行がふんだんに盛り込まれている。

明寺聖パウロ教会堂

設計:大渡伊勢吉  竣工:1879年   所在:博物館明治村(旧長崎県西彼郡伊王島)

キリスト教禁制の影響(1873年に禁教解除)を色濃く残す外観は一見農家のたたずまいを見せるが、内部は三廊式式バシリカ形式になる本格的なキリスト教会堂で、大浦天主堂(1865年)建立にも携わったブレル神父の指導で地元大工の大渡伊勢吉により建てられた。木造によりゴシック様式を表現していることから、石造とは違う軽やかさを表現しており、束ね柱・リブ部材の細さは際立っており、また、身廊・側廊境の束ね柱を1本ずつ欠く手法は独創的である。

ドイツ建築博物館

設計:O.S.ウンガース  改修:1984年   所在:ドイツ・フランクフルト

フランクフルト市街の中央を流れるマイン川沿いに位置する建築博物館。19世紀に建てられたネオ・バロック様式になるヴィラの躯体をそのままに内部を改修した、いわゆるコンバージョン。ガラス屋根をかけたアプローチを正面から側面にかけて備えて背面側の増築となる展示室へと誘う。2階より上は、毛綱毅曠の「反住器」を彷彿とさせるイエ型のボリュームを中央に据えて入れ子状の空間構成とし、上下階を吹き抜けにより巧みに1つのものとしてまとめている。

パンテオン

竣工:125年   所在:イタリア・ローマ

ほぼ完璧な形で残るローマの古代建造物の代表的建築。ローマ帝国においてキリスト教が国教になる前、多様なローマ神を等しく祀るために考案された円形平面にドームが載せられた特異な形状で、内部に直径43.2mの球体が収まる大空間を織り成している。日本の弥生時代にこれを為し得た高度な建築技術もさることながら、均等であることに伴う無方向性の空間にドーム中央に穿たれた天窓から注ぎ落ちる光の移ろいが折々の方向を演出する魅惑の建築。

ロンシャンの礼拝堂

設計:ル・コルビュジェ  竣工:1955年  所在:フランス・ロンシャン

スイス国境に近いフランス東部に位置する巡礼地・ロンシャンに設けられた小規模な礼拝堂。ル・コルビュジェの代表作であり、晩年における表現のさらなる飛躍を示した点で建築史に燦然と輝く名作である。湾曲し、斜めに設けた分厚い壁、内部に向けて窪むように架けたシェル屋根などの造形・構造の大胆な表現もさることながら、ファサードを南に、アプローチを北面させて、礼拝席を偏向配置としており、キリスト教会堂の造りとしても異彩を放っている。

八幡市民会館

設計:村野藤吾  竣工:1958年  所在:福岡県北九州市八幡東区尾倉2丁目

青年期を過ごした縁から村野建築が集う八幡にあって、街の中心ともいえる鉄道駅の真正面に構えられた文化ホール。ホール壁面を全面茶褐色のタイル貼りとし、当時の作品に共通の打放しコンクリートによる柱・梁のフレーム内にタイルを埋める手法によらない点は異色。正面入口の他にスロープで迂回して2階客席に誘うアプローチも異彩を放っており、穏やかな佇まいに比べて大胆な試みが盛り込まれた意欲作である。

おおたかの森小・中学校

設計:小嶋一浩・赤松佳珠子(CAt)  竣工:2015年  所在:千葉県流山市市野谷

つくばエクスプレス開通による人口増加に伴い開発されるようになった新市街地に設けられたおおたかの森センターとこども図書館を併設した小・中学校である。緩やかにつながったオープンな教室群を有機的なカーブを描いたテラスで一つながりとしてまとめ、また、多用途に渡る複雑なプログラムを確実にかつそれぞれを緩やかに繋がりを持たせつつ組み上げている。化学反応のような新たな学校建築の使われ方にも期待が出来そうな興味深い建築である。

東京国際フォーラム

設計:ラファエル・ヴィニオリ  竣工:1997年  所在:東京都千代田区丸の内

東京都庁舎の新築移転に伴い、国際コンペを経て跡地に建設されたホール・会議室などからなる複合文化施設である。敷地中央に貫入する形で広場を設けた建物配置構成とし、これが内向きに入り込むファサードとなって建築の表情を彩っている。ラグビーボール型をしたアトリウムも特徴的で、壁から屋根まで透明度の高いガラス空間を形成するために様々に組み立てられた構造部材が露出する内部空間は繊細でかつ力強く圧倒的な存在感を放っている。

旧金毘羅大芝居・金丸座

上棟:1835年  所在:香川県仲多度郡琴平町

江戸・京都・大坂の三都以外に常設で初めて設けられ、国内最古となった芝居小屋。入口を入り、平場を囲む2階建ての桟敷席を挟んで舞台、そして背面に楽屋が並ぶ構成とし、舞台機構も往時からの花道や廻り舞台・迫りを残す。伝統的な木造建築において大空間をなすために奥行の長い切妻造妻入とし、そこに径の太い梁を架け渡した大架構とするが、近年の補修で屋根裏に鉄骨補強が加えられている。

神奈川県庁舎本庁舎

設計:小尾嘉郎+神奈川県内務部  竣工:1928年  所在:神奈川県横浜市中区日本大通

関東大震災での焼失を受けて実施された新庁舎設計競技の1等小尾嘉郎案を基に竣工した。セセッションの新様式を纏い、スクラッチタイルを全面に貼り、テラコッタ装飾(現在は銅板に変更)を軒部分に飾り立ててライト式の装いを兼ね備えた近代オフィスビルである。特に正面中央上部に五重塔を思わせる相輪を載せた宝形屋根を構えており、後の帝冠様式の先駆的事例として近代建築史上に残る昭和戦前期を代表する庁舎建築である。

平川家住宅

竣工:江戸時代中期~後期  所在:福岡県うきは市浮羽町田篭

筑後川流域から佐賀県にわたる地域に特有の「くど造」になる古民家。特徴は主屋の棟がコの字型をした屋根形状を持つことで、当家では隣接する納屋(明治時代建築)と合わせて棟が3つ並び、他にない美しい佇まいをもつ。近年、周域が「うきは市新川田篭」地区として重要伝統的建造物群保存地区となったが、「くど造」は唯一であり、古くから重要文化財の指定を受けていたからこそ伝える、その歴史・文化・伝統の重厚さを感じずにいられない。

三井石炭鉱業株式会社三池炭鉱旧万田坑施設

竣工:1908年(第二竪坑櫓)  所在:熊本県荒尾市原万田

明治政府の官営事業の払下げを受けて、三井物産が団琢磨の主導で整備を行った三池炭鉱坑口の1つ。事務所建物や山ノ神の社など炭鉱施設の保存状況の良好なことが特徴で、その中心となるのが炭鉱職員や石炭の運搬に使用されたイギリス鋼鉄製の第二竪抗櫓とレンガ造の巻揚機室。炭鉱施設のもつスケールの壮大さとダイナミックな機構に圧倒される明治時代近代化遺産の代表事例の1つである。

金沢市東山ひがし伝統的建造物群保存地区

設置:1820年  所在:石川県金沢市東山

浅野川の東岸に広がる茶屋町。文政3(1820)年に藩からの公許を得て犀川西側の「にし」茶屋町と共に整形な街区として築かれた。江戸時代末期から明治時代初期にかけての茶屋建築(1階に出格子を並べ、2階に座敷を配した町家)が並ぶ金沢の主要な観光地として往来も賑やかだが、一方で花街の趣も残しており、裏通りを歩くと三味線の音色も響く華やか町並である。

黒田記念館

設計:岡田信一郎  竣工:1928年  所在:東京都台東区上野公園

日本近代洋画の父・黒田清輝を顕彰する記念館。スクラッチタイルを全面に纏った昭和最初期の流行を見せる佇まいにイオニア式オーダーを正面中央に並べたネオ・ルネサンス様式を下地にするが、全体的には壁面の目立つ閉塞的な外観である。トップライトによる採光とし、美術館機能を重んじたことによるもので、岡田信一郎の巧みで柔軟な設計手腕による「様式の天才」ぶりが発揮されている。文化財保存・再生の観点からも好事例である。

甲府市藤村記念館(旧睦沢学校校舎)

棟梁:松木輝殷  竣工:1875年  所在:山梨県甲府市北口(旧所在:山梨県中巨摩郡敷島町)

漆喰仕上でアーチ・コーナーストーンを象り、正面にはベランダを配して屋根には塔屋を載せた明治時代最初期の学校建築の遺構。棟梁が洋式建築を伝統の大工技術で仕上げた擬洋風建築で、特に山梨県令・藤村紫朗の下で建設された「藤村式建築」の1つ。校舎の役目を終えた後、1966年に武田神社境内に移され郷土資料館として使用されたが、2010年には甲府駅北口へと再度移築され、現在は交流施設として新たな使命の下で使用され続けている。

八窓庵

設計:小堀遠州  竣工:江戸時代初期(1951年移築)  所在:北海道札幌市中央区中島公園内

小堀遠州の作と伝わる二畳台目茶室で、同じ遠州作の燕庵と同じく湾曲した中柱を持つ。「八窓庵」と呼ばれており、これは8つの窓を持つことによる。はじめは近江国小室城内にあったが、各地を転々とし大正時代にとある実業家がこれを購入して札幌に移築し、この時に四畳半茶室の「三分庵」と水屋が増築された。1951年に札幌市に寄贈となり、実業家ゆかりの中島公園内に再度移築されて現在に至っている。

鳥取県立博物館

設計:日建設計  竣工:1972年  所在:鳥取県鳥取市東町2丁目

鳥取県の地域文化発展のために歴史・美術・地学・生物など多分野を総合的かつ包含的に展示・紹介する博物館。鳥取城内の野球場跡地に建設された打放しコンクリートの無骨な佇まいは、水平に積層した杉板を垂直材で挟み並べた本実型枠によるもので合板型枠に移り変わる過渡期の独自な表現である。エントランスに続くタイル敷きのアプローチは内部の中心を貫く大階段にシームレスに繋がっており、ダイナミックな空間造形でまとめられている。

旧鍋島燈台退息所

設計:R.H.ブラントン  竣工:1873年  所在:香川県高松市屋島中町(旧所在:坂出市・鍋島)

瀬戸大橋の中央に位置する鍋島に置かれていた鍋島燈台の付属施設(官舎)で、現在は「四国村」に移築保存されている。「日本の灯台の父」ことR.H.ブラントンの設計によるルスチカ積・石造平家建の建築で、ガラリ戸やトスカナ式オーダーを思わせる円柱が並ぶベランダを持つコロニアル様式の洋風住宅である。暖炉を持つなど内部も洋風だが、屋根は桟瓦葺、天井は棹縁天井と和風要素も併せ持つ和洋混交の明治時代最初期らしい建築。

丸岡城天守閣

築城:1576年  所在:福井県坂井市丸岡町霞町

安土桃山時代に建造されたと推定される国内最古の天守閣である。単独で構成する独立式の天守閣で、下層に大きな入母屋屋根、上層に廻り縁を付した小さな望楼を載せた望楼型2重3階の建築である。一般の城郭建築らしく外壁に石落としや狭間を備え、かつ内部は板敷で軸部は素木のままの質素な設えだが、屋根葺材に地域特産の笏谷石を用いていることは珍しく、これは北陸地方の寒冷地に合わせた仕様であったといわれる。

金沢監獄正門・中央看守所・監房

設計:山下敬次郎 竣工:1907年 所在:愛知県犬山市 博物館明治村(旧所在:石川県金沢市)

司法省営繕課・山下敬次郎の設計による「明治の五大監獄」の1つで、現在は正門、中央看守所、5つの監房のうち1つが博物館明治村に移築保存されている。正門はレンガ造で辰野式フリークラシックによるもので、中央看守所・監房は木造下見板張・上げ下げガラス窓の洋風の設えに桟瓦葺の和風屋根としており、中央の看視室から監房を放射状に並べて各房を見張る洋式の監獄(刑務所)である。

旧山邑家住宅(現ヨドコウ迎賓館)

設計:F.L.ライト 竣工:1924年 所在:兵庫県芦屋市山手町

20世紀を代表する建築家であるF.L.ライトの基本設計による住宅建築で、その作品の中では国内で唯一完全な形で現存するものである。市街を見下ろす高台の傾斜地に合わせて、4層を後方に段階的にスライドさせる形で積層しており、巧みに配置した階段で奥まりつつ上昇させゆく居室・廊下の配置・空間構成とする。敷地特性を最大限活かし切った設計となっており、ライトの提唱する「有機的建築」が美事に表現されている。

ONOMICHI U2

設計:谷尻誠・吉田愛/SUPPOSE DESIGN OFFICE 竣工:2014年 所在:広島県尾道市西御所町

県営上屋2号と呼ばれた戦時中に建てられた海運倉庫の躯体を活かし、サイクリスト向けのホテルやレストラン、ショップなどを複合した施設としてコンバージョン。平家建ならではの径の細い柱が並び、戦前期のコンクリート造らしく梁端部を厚くした無骨な佇まいをそのまま活かして、新しい機能を建築家ならではのセンスで巧みに取り合わせている。古さと新しさ、無骨さと繊細さを兼ね備えた歴史的建造物保存の観点からも秀逸な建築である。

旧岩崎家末廣別邸

設計:津田鑿  竣工:1927年  所在:千葉県富里市七栄

三菱社の岩崎家が経営した小岩井農場と同系列となる末廣農場内に設けられた別邸。洋館・洋室のない近代和風建築で、一見華やかさに欠くが、軒先に鼻隠板を付し、畳廊下の棹縁天井を角で軽妙に取りまとめるなど、細部意匠に及ぶまで丁寧な造りが光る。一般的な和風建築より柱を密に配するなど、関東大震災後の昭和戦前期らしい特質も備えている。また、邸内には瀟洒な東屋と白釉掛スクラッチタイルを貼った石蔵も併せ持っている。

雲南市加茂文化ホール ラメール

設計:渡辺豊和  竣工:1994年  所在:島根県雲南市加茂町宇治

のどかな山間の田舎町に鎮座する複雑奇怪な造形をした白亜のオブジェの如き文化ホール。「ふるさと創生事業」の中で産み落とされたバブル経済を象徴する建築であり、「卵を抱いたヤマタノオロチ」をモチーフとしたデザインは有機的な曲線・曲面からなるポストモダンを象徴する圧倒的な建築表現を纏う。メンテナンスなど維持管理の負担は少なくないだろうが、山陰地方を代表するポストモダン建築としての文化資産の将来性に期待したい。

姫路城

棟梁:桜井源兵衛  竣工:1608年  所在:兵庫県姫路市本町

近世期築城の現存12天守の1つで、大天守と小天守3基から構成される連立式の天守閣をもつ国内を代表する城郭建築。典型的な平山城で天守閣を取り巻く縄張は広大な城郭都市を構成していた。内曲輪には様々な形をした狭間の穿たれた石垣・築地塀、大小様々な門・櫓が複雑な縄張を形成し、「白鷺城」の異名の通りに白く輝く豪壮でかつ美しい城郭を織り成している。

玉若酢命神社

建立:1793年(本殿)、1852年(随神門)など  所在:島根県隠岐郡隠岐の島町下西

隠岐・島後の開拓に関わるとされる玉若酢命を主祭神として祀る隠岐国総社として知られる古社。本殿は正面3間、側面2間の切妻造妻入で、屋根と構造的に切り離された庇が正面に取り付くことを特徴とする隠岐造の神社本殿形式とする。全体的に彫刻・絵様は控えめで、素木・茅葺屋根とするあたりに素朴さを感じるが、際立つ高さを誇る社殿は当地で古来より深い崇敬を集めてきた荘厳さを纏っている。

濱田庄司記念 益子参考館

計画:濱田庄司   竣工:1942年(1977年開館)  所在:栃木県芳賀郡益子町益子

我が国を代表する陶芸家である濱田庄司の旧宅・工房を活用し、濱田自身が「参考」にした蒐集品等を展示する施設。1924年から約20年をかけて益子町ならびに栃木県内各地から古民家・石蔵・長屋門を移築して邸内を構成している。別邸であった豪壮な「上ん台」や濱田の工房・登り窯など個々の建築が持つ民俗的な魅力もさることながら、数々の濱田の陶芸作品が生み出された舞台としても歴史・文化的価値が認められる

旧登米警察署庁舎

設計:山添喜三郎   竣工:1889年  所在:宮城県登米市登米町寺池中町

洋風建築への先取の気質に富む大工棟梁として知られる山添喜三郎によって設計された明治中期の警察署庁舎。白ペンキ塗の下見板張に上げ下げ窓を設け、正面に大きく掲げられたペディメントやイオニア式オーダーをデフォルメした柱など擬洋風建築らしい特徴を備え持つ好例である。後方にはかつての取調室や木製の留置場を残しており、明治期の近代遺産としての生活・文化を伝える面でも注目できる。

東海大学湘南キャンパス1号館

設計:山田守   竣工:1963年  所在:神奈川県平塚市北金目

東海大学の顔となる講義棟。3方向に広がる放射状プランによる凹型に湾曲するファサードは、幾何学的な構成の中に躍動感ある表情を併せ持つ。上下階のアクセスは各所に配された階段だけでなく、中央を螺旋状に貫くスロープを置くことが大きな特徴で、これは屋上を超えて塔屋にまで続くシンボリックで求心的な造形をなしている。キャンパスを一望できる屋上には上階への増築を見込んであらかじめ用意したという柱上の凸型が並ぶ。

GLION MUSEUM(旧住友倉庫築港赤レンガ倉庫)

竣工:1923年  改修:2015年  所在:大阪府大阪市港区海岸通

住友倉庫によって建設された築港赤レンガ倉庫を、大阪市の主導によるプロポーザルでの事業者選定を経て、カフェ、レストランを併設するクラシックカーミュージアムとして保存再生がなされた。内部から鉄骨による耐震補強を加えたのみで赤レンガの壁、小屋組の鉄骨トラスなどをそのままに活かした歴史的建造物保存の好例。かつて貨物用の鉄道が敷かれていたとう中央広場は赤レンガの町並のごとく壮観なたたずまいを有している。

国立西洋美術館本館

設計:ル・コルビュジェ  竣工:1959年  所在:東京都台東区上野公園

「敵国財産」として接収されていた戦前の実業家・松方幸次郎の美術蒐集品の寄贈返還を受けるにあたり設けられた美術館。ル・コルビュジェの提唱した「無限成長美術館」のコンセプトに基づき、弟子である前川國男、坂倉準三、吉阪隆正の実施設計により、中央の吹抜を持つホールから周囲に回廊状に並べた展示室に導くという求心性の高い平面構成が実現された。コルビュジェの建築思想が純度高く表現された世界的にも希少な建築作品である。

横浜市開港記念会館

設計:山田七五郎  竣工:1918年  所在:神奈川県横浜市中区日本大通

「ジャックの塔」の愛称で知られる横浜のシンボル「横浜三塔」の1つ。横浜開港50周年を記念して建設された公会堂建築で講堂のほか大小の会議室から構成される。外観は「辰野式フリークラシック」と呼ばれるクイーン・アン様式をベースに古典的装飾を簡略化したデザインで、加えて交差点の角地に高々と掲げた時計塔をファサードの軸をとする立面構成としており、「日本的解釈」による近代建築の優れた好例である。

カプセル・イン大阪

カプセル原案・設計:黒川紀章  竣工:1979年  所在:大阪府大阪市北区堂山町

華やかな歓楽街の中にある低価格な宿泊施設 ― その世界初のカプセルホテルとなるのが本作である。幅1.1m×高さ1.2m×奥行2.1mの「スリープ・カプセル」が間口を開けて並ぶ様子は壮観で、FRP製で一体的にTVや操作盤を取り込んだ流線形のデザインはエイジレスな新鮮さを保っている。廉価で気軽に泊まれる有名ホテルの代表的存在であるが、共有スペースが主体となるホテルなので見学時の騒音・迷惑行為には特に注意のこと。

国立新美術館

設計:黒川紀章、日本設計  竣工:2007年  所在:東京都港区六本木7丁目

公募展での使用を主な目的とし、収蔵品を持たない美術館として開館した。後方に矩形の展示室を並べ、その正面を大きく波形に湾曲したガラス壁面で囲って長大なアトリウムとし、ここに円錐形のボリュームを築いて上部にカフェ・レストランを置く。元々は東京大学生産技術研究所でもあった旧日本陸軍歩兵第3連隊兵舎があり、これは一部の壁面が切り取られて別館としてファサード保存されているが、保存活用方法としては好事例とは言い難い。

旧河原家住宅

竣工:江戸時代後期  所在:千葉県佐倉市宮小路町

佐倉藩の武家町の面影を伝える鏑木小路に残る武家住宅の1つ。旧但馬家住宅並びに共に付近より移築復原された旧武居家住宅と比べて最も古く、かつ300石以上の大屋敷として家格も高い遺構である。茅葺屋根を載せた素朴な建築であるが、南側を玄関・取次の間・長押を回して床を設けた客座敷の「接客系領域」と北側に居間・茶の間・台所などの「居住系領域」として邸内を平面・内部造作ともに2分する武家住宅の特徴を備えた好例である。

玉堂美術館

設計:吉田五十八(建築)、中島健(庭園)  竣工:1961年  所在:東京都青梅市御岳

日本画の巨匠・川合玉堂を顕彰して、晩年を過ごした御岳の地に建設された美術館である。生前に玉堂がもんぺと袴を合わせたような衣服を好んだことから、本棟造を思わせる民家風の姿形をしたRC造の展示室に木造の回廊を取り回して寺院風の意匠を兼ね合わせたものとしている。回廊は再現した玉堂晩年のアトリエへと通じ、築地塀で囲まれた空間は多摩川渓流の深緑を背に枯山水庭園を築き、風景-庭園-建築が一体となった美しさを醸している。

香取神宮

棟梁:小菅長右衛門ほか  竣工:1700年(本殿・楼門)ほか  所在:千葉県香取市香取

全国約400社の香取神社の総本社で、古代より鎮護国家の武神として信仰を集めてきた古社である。本殿は正面側3間で前後に前庇・後庇を加えた両流造の社殿形式である。黒漆塗の重厚なたたずまいに彩色を主体とした平面的かつ華やかな装飾性は江戸時代初期の社寺建築の特質を備え持つ。このほか境内には本殿と同じく造営された楼門、旧拝殿があり、正面に構える現在の拝殿は1937(昭和13)年に建立されたものである。

富田林市富田林伝統的建造物群保存地区

開町:室町時代末期  所在:大阪府富田林市富田林

富田林駅の南側、石川の河岸段丘上に広がる歴史的町並。興正寺別院を中心として室町時代末期に開かれた寺内町で、細かに雁行した碁盤目状の街割の中に旧杉山家住宅をはじめとした江戸時代以降に建てられた本瓦葺・切妻造平入の厨子ニ階建の豪壮な町家が並ぶ。閉鎖的ではないのに不思議と周囲から切り離された異質なたたずまいを纏う様は、まさに寺内町ならではの空間的特質といえる。

金沢21世紀美術館

設計:SANAA(妹島和世+西沢立衛)+佐々木睦朗  竣工:2004年  所在:石川県金沢市広坂1丁目

兼六園をはじめとした観光名所や石川県立美術館などの文化芸術施設が近隣に並ぶ中心地にあり、円形という美術館に特異な形状がかえって求心性を集めるランドマークとして機能している。高さの異なるホワイトキューブの展示室を大きなガラス曲面で正円に囲み、内部の大半を休憩スペース等で開放することで、形状・空間共に外部と内部が緩衝し合い、金沢の街に建築空間そのものが蕩けたかのような高度に醸成された「空気」を演出している。

千葉市立郷土博物館

設計:不詳   竣工:1967年  所在:千葉県千葉市中央区亥鼻1丁目

通称「千葉城」と親しまれる郷土博物館で、亥鼻山の高台に「築城」されている。千葉の町の発展に寄与した千葉氏が高層の天守閣を持たなかったとされることからも、鉄骨鉄筋コンクリート造にて戦後になって観光施設として設けられた「模造天守」とも言うべき事例である。「城下」を見守って50年、日本人の建築観を象徴的に示す事例として歴史的・文化的価値には近代日本建築史学上注目できるのではないだろうか。

旧岩井小学校校舎

設計:不詳   竣工:1892年  所在:鳥取県岩美郡岩美町岩井字蔵屋敷

開湯1300年という歴史を誇る岩井温泉の裏通りに佇む鳥取県内最古の洋風建築。2階建ての下部を下見板張、上を漆喰壁として上げ下げ窓を入れ、象徴的な中央のポルティコにはドリス式をベースとしたカップルド・コラムに加えてコーニスも備えた、いわゆる「擬洋風建築」になるものである。西日本では珍しい心々制で設計されており、明治期の学校建築の広がりを考える上でも興味深い事例…保存活用も視野に入れての目下の研究課題である。

六義園

設計:柳沢吉保   築庭:1702年  所在:東京都文京区本駒込

江戸幕府5代将軍・徳川綱吉の信任の厚かった川越藩主・柳沢吉保が旧前田綱紀邸を拝領して下屋敷とし、その邸内に築庭したもの。中央に大きな池を配して園路を巡らせた「池泉回遊式庭園」として整えられており、古今集の和歌の分類である「六義」に由来するように和歌の趣味を基調とし、かつ和歌に詠まれた名所を散りばめて構成された名勝。明治時代に三菱・岩崎家の別邸となった後に寄贈され、市民に愛される庭園として現在に至っている。

歓喜院聖天堂

設計:林兵庫正清   建立:1760年  所在:埼玉県熊谷市妻沼

仏法の守護神でかつ福運厄除の神である大聖歓喜天を祀る、手前より拝殿・相の間・奥殿で一体的に構成される「廟型式権現造」となる社殿建築。注目すべきは八棟造の形式を持つ奥殿で、四方の各壁面・各部材を全面的に精密でかつ華麗な彫刻と彩色で埋め尽くした建築意匠を持つ。彫刻は立体的な精緻さが際立ち、彩色の配色は艶やかでありながらも調和の取れた優れたもので、江戸時代中期の社寺建築を代表する貴重な遺構である。

誠之堂

設計:田辺淳吉   建立:1916年  所在:埼玉県深谷市起会

渋沢栄一の喜寿を祝い、第一銀行(現・みずほ銀行)の行員たちの出資により建設された。渋沢の希望に従い、レンガ積みを露わしにしたイギリスのコテージ風としつつ、ステンドグラスや漆喰装飾などの室内装飾に東洋趣味を加味した小規模ながら品の良い瀟洒な建築である。当初は東京・世田谷に所在したが、レンガ壁面を大ばらし解体し、RC臥梁・PC鋼棒で補強を加えて現在地に移築保存が行われた。

道後温泉本館

設計:坂本又八郎   改造:1894年  所在:愛媛県松山市道後湯之町

3000年を超える歴史を持つと伝わる日本最古の古湯こと道後温泉における共同浴場。道後湯之町町長・伊佐庭如矢が町の発展を見据えて、老朽化していた建物を3階建へと大規模改修したもので、高低・大小・形状の様々な屋根が織り成す装いは、温泉地の持つ旅情豊かな遊興的な華やかさと庶民に長く親しまれてきた風土を纏う軽妙さを兼ね備えた稀有な建築である。映画「千と千尋の神隠し」のモデルとなったことでも有名。

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